大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和44年(む)150号 決定 1969年2月21日

被疑者 伊藤和子 (写真番号八一号の女)

決  定

(被疑者氏名略)

右の者に対する建造物不退去、兇器準備集合、公務執行妨害、傷害被疑事件につき、昭和四四年二月一三日神戸地方裁判所裁判官のなした勾留の裁判および接見禁止等請求却下の裁判に対し、神戸地方検察庁検察官から準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件準抗告の申立はいずれも棄却する。

理由

一、本件各準抗告の申立の趣旨及び理由は、別紙準抗告申立書(略)記載のとおりである。

二、当裁判所の判断

(一)  勾留の裁判に対する準抗告について

勾留理由の当否について判断する前に、被疑者の勾留を認めた原裁判の理由のみを不服とする準抗告の適法性について判断する。

検察官が勾留請求に際し主張する刑事訴訟法六〇条一項各号の勾留理由は裁判官を拘束するものでなく、裁判官は独自の立場で自由に勾留の理由が判断でき、検察官主張の理由と異なる理由で勾留を認めることは何ら差支えないのであり、さらに、勾留理由の如何が勾留を前提とする以後の諸手続に与える影響を検討してみると、勾留延長、勾留の取消、接見禁止等は原裁判の勾留の理由に関係なく別個に判断できるのであり、原裁判の勾留の理由となつていない理由で勾留延長、接見禁止等を認めることも、又原裁判の勾留理由が消滅しても他の理由のあるときには勾留を取消さずに勾留を維持することも出来るものと解するのが相当であり、又その裁判に対しても不服の申立が許されるのである。

従つて、裁判官によつて同法六〇条一項各号のいずれかに該当するとして、その請求が認容された以上、検察官としては結局その目的を達成したことに帰するのであるから、勾留の理由のみを不服の理由とする準抗告はその利益を欠くものといわざるを得ない。

従つて、本件につき刑事訴訟法六〇条一項各号の判断をするまでもなく、本件準抗告は棄却をまぬがれない。

(二)  接見禁止等請求却下の裁判に対する準抗告について。

刑事訴訟法二〇七条によつて、被疑者にも準用される同法八一条によれば、勾留されている被告人については接見禁止等がなし得る旨規定されており、右の勾留されている被告人というのは、勾留の裁判により現実に身体の拘束を受けている被告人を意味するものであつて、保釈、勾留の執行停止中の者を含まないと解すべきである。何故なら、身体の拘束を受けていない被告人又は被疑者に対する接見等の禁止は無意味であり、保釈(被告人の場合)については保釈の取消された時点で、勾留の執行停止(被告人および被疑者に共通)にあつてはその停止期間の終了した時点で、その必要に応じて接見禁止等の請求をすれば足りるからである。

ところで、当裁判所取寄せの疎明資料によれば、本件被疑者については、昭和四四年二月一九日神戸地方裁判所裁判官により、同年三月五日午前九時まで勾留の執行を停止する決定がなされ、右決定は即日執行されたことが認められる。

従つて、本件被疑者については、接見禁止等の前提となるべき現実の身体の拘束が消滅しているのであるから、現時点においては接見禁止等の請求自体もはや失当というべく、結局本件接見禁止等請求却下に対する準抗告の申立もその前提を欠くことになり、原裁判の当否を検討するまでもなく、棄却をまぬがれない。

以上のとおり本件各準抗告の申立はいずれもこれを棄却することとし、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項により主文のとおり決定する。

(裁判官 石丸弘衛 橋本達彦 瀧川義道)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例